教員とスクールカーストと学級崩壊

本を書いて何が嬉しいといって、自分の意見が世の中の現実と向き合っている方々にプラスの影響を与えたと感じられるときほど嬉しいことはありません。

自分の主張を誰かがブラッシュアップしてくれた場合は、もはや恩人といっても過言ではないでしょう。

北海道で教師の授業力向上に尽力している、堀裕嗣氏はその意味で私の恩人です。彼は、私が分析・提示したスクールカーストとコミュニケーション能力の関係を教員にも当てはめ、教員が教室内でリーダーシップを取るためには、「自己主張力」「共感力」「同調力」の向上に努める必要があると指摘しました。

このブログを読んでいる方の中で先生がいたら、是非参考にしてほしいと思うので、ちょっと古い情報ですがコピペします。

「学級集団を構成する子ども達が、時代とともに変容してきている。現代の子ども達は、〈自己主張力〉〈共感力〉〈同調力〉の総合力としての「コミュニケーション能力」の高低を互いに評価し合いながら、自らの「スクール・カースト」の調整に腐心していると見て良い(『いじめの構造』森口朗・新潮新書/『友だち地獄』土井隆義・ちくま新書)。「スクール・カースト」は別名「学級内ステイタス」とも呼ばれ、学級への影響力・いじめ被害者リスクを決定し、子ども達を無意識の格闘に追い込んでいる、重要な概念である。

21世紀に入って、教育界から政財界に至るまで、これからの人間に必要なのは「コミュニケーション能力」であると声高に主張している。しかし、この「コミュニケーション能力」の具体が何であるのかという説得力ある論述はなかなか見られない。森口朗は、これを子ども達が〈自己主張力〉〈共感力〉〈同調力〉の総合力と捉えていると分析した。〈自己主張力〉とは自分の意見を強く主張する力、〈共感力〉とは他人を思いやる力、〈同調力〉とは周りのノリに合わせる力である。更に詳しく言うなら、次のようになる。

○自己主張力:自分の意見をしっかりと主張することができ、他人のネガティヴな言動、ネガティヴな態度に対してしっかりと戒めることのできる力。80年代以降の世論によって大切だと喧伝されてきた能力。

○共感力:他人に対して思いやりをもち、他人の立場や状況に応じて考えることのできる力。従来から学校教育で大切と考えられ、リーダー性にとって絶対的に必要とされ重要視されてきた能力。

○同調力:バラエティ番組に代表されるような「場の空気」に応じてボケたりツッコミを入れて盛り上げたりしながら、常に明るい雰囲気を形成する能力。子ども達によって現代的なリーダーシップには不可欠と考えられている、現実的には最も人間関係を調整し得る能力。

※この三つの総合力を「コミュニケーション能力」と呼び、毒舌タイプの級友にツッコミを入れて逆にオトしたり、大人しい子やボケ役の子をいじって盛り上げたりして、「場の空気」によって人間関係を調整していく。

この三つの力の総合力を子ども達が「スクール・カースト」(=学級内ステイタス)を測る基準としている、というのである。森口はこれをマトリクスとしてまとめ(『いじめの構造』森口朗・新潮新書・45頁)、三つの力といじめ被害者リスクとの関係を示した。そこで分析されているのは、現代の学級が以下の8つのキャラクターによって構成されている、ということである。

?スーパーリーダー(自己主張力・共感力 ・同調力のすべてをもっている)
?残虐なリーダー(自己主張力・同調力をもつ)
?栄光ある孤立(自己主張力・共感力をもつ)
?人望あるサブリーダー(共感力・同調力をもつ)
?お調子者・いじられキャラ(同調力をもつ)
?いい奴(共感力をもつ)
?自己中心(自己主張力をもつ)
?何を考えているかわかにない(自己主張力・共感力・同調力のどれももたない)

この?〜?の順で「スクール・カースト」の高低が決まる。しかも、ここで言う「スーパーリーダー」は、現在の学級にはほとんどいない。それに対して、「お調子者」「いい奴」「自己中心」はかなりの数がいる。また、「残虐なリーダー」も一定程度いる。この集団構成が現在の学級集団の統率を著しく難しくしている。

さて、ここで教師の立場として考えておかなければならないことは、実はこの「スクール・カースト」が、決して子ども達だけが対象になっているわけではない、ということである。実はこの視線は、担任教師にも向けられているのである。もしも、担任教師が「自己主張力」と「共感力」しかもたず、「同調力」をもっていないとすれば、それは「スーパーリーダー」以下、「残虐なリーダー」と同等程度のカーストと見なされる。「共感力」「同調力」はあるが、「自己主張力」が弱いという場合には、「残虐なリーダー」以下の「人望あるサブリーダー的な教師」と見なされている。「自己主張力」だけなら「自己チュー教師」、「共感力」だけなら「いい奴だけど、いじめのターゲットになり得る教師」とさえなるのである。

おそらく最近の小学校高学年から中学校において頻出している学級崩壊は、担任教師のカーストが低く、それ以上のカーストとして認められている子ども達の影響力の大きさによって引き起こされている。こうした現状に鑑みると、現在、学級担任が「残虐なリーダー」タイプや「お調子者」タイプと対立しながら学級を統率していくことは至難の業である。その意味でも、子ども達のノリ、時代的なノリに対する、教師の「同調力」が重要になる。他人を思いやりましょう、規律を守ることが大事だ、といった真面目一辺倒の路線では立ちゆかないのが現代的学級の特徴なのである。

教師はいま、〈自己主張力〉〈共感力〉〈同調力〉という三つの力の総合力としての「コミュニケーション能力」をもたねばならない立場に置かれている。ベテラン教師、お母さん教師、優しいお兄さん・お姉さん教師が、学級を統率することができずに崩壊させる要因はここにある。

とは言っても、こうした三つの能力を須くもつことは、教師にとっても困難である。その打開策として、私は学年団がキャラクターに基づいた「チーム力」を発揮することを提案している。それが私が何度も紹介している「教師力ピラミッド」の思想である。」