留学生が減ったことを嘆くなら

10年前と比較して米国への留学生が半減しているらしい。

この事実から思うことは多いが、
メディアで「最近、若者が内向きになっている」と嘆く老人には、早く退場してほしいと切に願う。

そういう方は、何があっても「最近の若者は…」というのだろう。

私も「最近の若者は…」という言説は嫌いではないが、当の若者の耳に届けたいならば、良いところを褒め、ダメなところを指摘しなければ、絶対に受け容れられない。

しかし、老人同士で慰めあいたいのなら、何でもかんでも貶せばよい。

つまり、「最近の若者」言説には言説A(若者に声を届けたい言説)と言説B(老人の娯楽としての言説)の2種類が存在する。

教育関係者には、この2種類をしっかりと選別してほしい。

少なくとも米国への留学生が半減していると嘆く言説は、当の本人が留学した方し現在も活躍し、日本の若者に勇気を出して留学を勧めている場合を除けば、まず言説Bと判断してよいだろう。


バブル以降盛んになったアメリカ留学。しかし、流行に乗って人生を狂わせた人がどれほど多いだろう。

三流大学生の短期語学留学や、短大卒OLの1〜2年の語学留学が企業に評価されないのは仕方がない。幼い頃からしっかりと勉学に励まなかった人達が、語学を学んでTOEICで少々点数が上がったからといって、人生一発逆転できると考えるのは、あまりにおめでたい。

しかし、キチンと大学院を出た人達がどれほど評価されただろうか。中途退職し、米留学で修士号を取得し、帰国して、投資額と努力がペイした人などほんの一握りに過ぎない。そもそも、日本の一流企業は外部の優秀な人材をスカウトする文化が乏しいし、例外としてスカウトする場合でも「他社のサラリーマンとして活躍している人」=「外部の優秀な人材」なのである。


官公庁や企業の人事政策の一貫として留学した人や、外資系に転職した人を除き、多くの人達が留学したことで生涯賃金を減少させている。それが日本型の「ぬるい学歴社会」の現実である。


メディア言説を聞きかじり、巷で「最近の若者はチャレンジ精神がない。留学生も半減しているそうじゃないか」という人がいたら(そして、その人にカチンときたら)、

「あなたは、10歳も20歳も若いハーバードMBA卒の途中入社組女性の部下になってもOKなんですね」と言い返してみよう。

米留学が増加している国々は、そういう社会を背景として若者がチャレンジしているのだ。

変えるべきは、若者のチャレンジ精神ではなく、この閉塞した日本社会である。