容疑者は釈放されても容疑者なのだが、「草なぎ容疑者」はわずか一日で「草なぎさん」に昇格した。
何の矜持もない私企業である「テレビ業界」や「新聞業界」にとって、ジャニーズ事務所や吉本興業、バーニングといった大手プロダクションは、大切な商売仲間なのだろう。
刑事事件を起こしても復活する芸能人、謹慎中も同情的(かつ卑屈)なコメントをもらえる芸能人は、たいていの場合、大手事務所に勤める人間である。
その意味でTV界は、我々が数十年前まで過ごしていた「古きよき」そして「薄汚れて汚い」世界なのだろう。
私は60年代から70年代にかけて、小さな町の飲食店の息子として過ごしていた。その頃思っていたのは「世の中はなんと強者に都合よくできているか」だった。
私の父が運営している小さな飲食店など一度でも食中毒を出せば保健所から営業停止をくらい、噂が噂を呼んですぐに潰れてしまう。勤めていた数人の従業員も路頭に迷うだろう。
ところが、公害や薬害を垂れ流し何人もの人の命を奪った大企業(そしてその大企業に勤めるサラリーマン)は、深刻な顔をした芝居を数回うてば無罪放免であった。
中にはチッソのように総会屋(という名の暴力団)を雇い、会社を追求する株主を暴力で押さえつけても許される会社があった。
(ちなみに、暴力で少数派の株主を株主総会から追い出した時の経営者の孫娘が、現在の皇太子妃である)
あの懐かしくも薄汚れた昭和の時代から、一般社会は随分と変わった。
被害など発生しなくても、大企業は官公庁の不正は内部告発により叱責され、責任者の首は平気でとぶようになった。
夜中に裸で騒いだ挙句、警官に取り押さえられ「公然わいせつ罪」で送検されれば、大企業のサラリーマンや公務員なら間違いなく「クビ」だ。
でも、飲食店主やそこに勤める従業員なら、「バカだな」ですむかもしれない。
これが平成のスタンダードである。
強者に厳しく、弱者に甘いのだ。
そして、弱者を装う利益団体にはもっと甘い。私はその不正に抗議し、強者も弱者も、弱者を装う利益団体も平等に扱えと主張してきたつもりである。
しかし、芸能界は違う。
ジャニーズ事務所の「草なぎさん」は芸能界にもどってくるだろう。
その数週間前に、弱小事務所の「北野誠」は、何をやったのかも判らぬまま、芸能界を追放された。
人は「才能の有無」や「勤め先の大小」、「普段から人に好かれているか否か」でひどい差別を受けるのだ。
そのことをキチンと認めて「何が悪い」と、マスコミの方々には是非うそぶいてほしいと思う。