義務教育期間中の留年について

 オカマでもないのにオカマのフリをし、国旗国歌問題で批判が殺到するとテレビの編集のせいにした尾木直樹さんが、今度は留年問題で橋下市長に提案を受け容れられた途端に、自分にも批判が殺到したので前言を翻しました。


 彼は、元日教組の闘士ですが、社民党系と共産党系に割れる前の日教組戦士で、実態は共産党系の方です。あの政党の方々は完全に頭のおかしい新左翼系と違って、結構国民受けを気にします。


 また、敵の人気を落とす戦略も得意です。
 おそらくは、さすがの橋下市長もここまではできまいと踏んで
「小学校で九九ができなければ、留年させてでも面倒をみる。(小中学校でも)留年させても府民の子供の力をつけてもらう、というのを橋下さんが出してきたら僕は大喝采します」とコメントしたのでしょう。
そしたら、予想以上に過激な橋下市長が本当に乗ってきてあわてたというところでしょうか。



 さて、それはそうと何人かの方に森口は義務教育留年問題をどう思うかという質問をされました。
 留年問題は、フィンランド教育を調査した時点で私も自分なりの考えをまとめ、『なぜ日本の教育は間違うのか』(扶桑社新書)で書いておきました。

結論は、

「留年制度の積極的な運用には賛成しません」

です。

ここでは、扶桑社新書に書ききれなかった(留年問題がテーマではなかったので)反対理由を書きます。

※ その前に大前提として、珍しく新聞でもキチンと書かれていますが、留年制度は今でも存在し、法律上は校長判断で可能です。
 しかし、公立学校での留年は、病気等による休学があり、本人希望によるものがほとんどで、学力を理由とした留年は皆無といってよいでしょう。
※ 一部の私立学校には学力を理由とした留年制度を積極的に行っているところがあります。



(反対理由)
1 「何でも同じ」が平等と考える日本人の中で、義務教育期間中の学力未達を理由とした留年は、その後の人生でのハンディキャップとして大きすぎる。
 ※ 私は、日本人の平等観を是としませんが、義務教育留年をするような子どもが海外に雄飛する確率は極めて低いので、彼はその後の人生を日本で過ごす前提で考えるべきです。

2 「留年するかもしれない」という恐れは学習のインセンティブになるが、留年してしまった者が学習へのインセンティブを持ち続ける可能性を低いと予想される。

3 高校や大学では、「出席」と「修得」のいずれかが欠けた場合に「留年」となる。
 それとパラレルに考えるならば、不登校児童・生徒を全員留年としなければ留年制度の公平性が保てないが、現在圧倒的多数の不登校児童・生徒は進級・卒業している。
 ※ 彼らも全員留年にすれば良いという過激な意見もあるでしょうが、35歳引きこもり暦25年の中年に小学校4年生からやり直せという勇気は私にはありません。



(代替措置)こちらは新書でも書きました。

1 学年ごとの「修得テスト」の実施
  本当だったら留年状態であることを親や本人わからせた上での進級(教員間、学校間でも引き継ぐ)
  進級させた上で「特殊教育」受講の奨励
 ※ この段階で拒否したら「留年」というのならアリかも?


2 軽度発達障害児や落ちこぼれた者への「特殊教育」の充実
  現在の「特殊教育」は重度障害者だけに行われています。しかし、残念ながら彼らへの教育効果は大きいとはいえません(費用は一人当たり年間数百万円から1千万円弱と莫大です)。その一方で、特別なケアさえあれば健常者同様の生活ができる軽度発達障害児や、落ちこぼれた子どもは、まだまだないがしろにされているのが現実です。

3 落ちこぼれ防止としての「習熟度別授業」
 ただし、習熟度別授業はあくまで落ちこぼれ防止であって、落ちこぼれ治療には無力です。彼らには、当該学年よりもはるか前に遡った特殊教育が必要なのです。



 留年に比較すれば相当に「甘い」措置ですが、これだって
「○○君には、軽度の発達障害の可能性があります。普通学級に在籍しながら、一部特殊教育を受けたらいかがですか?」
と先生が勧めたら、
名誉毀損だ」「人権侵害だ」と騒ぐ親が大勢います。
それゆえ、この程度の「甘い」改革さえ、今までの政治勢力にはできなかったのでしょう。