参院こそはまともな安保関連法案の議論を

いよいよ参議院で安保関連法案の審議が始まります。

私は、日本国民の命と財産を守るために安全保障体制を強化することには大賛成なのですが、今回の安全保障関連法案には、2つの点で不満を持っています。

一つは、2年程前に一部で話題となった「ポジティブリスト」問題を、また避けてしまったという点です。
通常軍隊というのは、有事に敵国相手に活動する訳ですから何をやっても良い存在です。
しかし、人類の不幸な歴史から正規軍には「ガス兵器や生物兵器は使用しない」「敵国の市民は殺さない」「国際法規に違反する捕虜の取扱いはしない」等々の縛りをかけられています(その点がゲリラとの決定的な違いです)。
そしてこれを「ネガティブリスト(やってはいけないリスト)」と呼びます。つまり近代国家の軍隊は「ネガティブリスト以外は何をしてもよい」存在なのです。
ところが、自衛隊は「やってよいこと」=「ポジティブリスト」が定められていて、それ以外はやってはいけない。どんな時に発砲してよいかも全部定められていて、そうでない時に発砲したら後で処罰されます。これでは、有事の際にいちいち法令との整合性を判断しなければならず、機動面で致命的な弱点になります。
「直接侵略された場合以外は同盟軍の後方支援、ただし同盟軍が攻撃された際には駆けつけ警護も可能」という今回の政府案は、基本姿勢として至極真っ当ですが、それを個別に法律で縛る現段階での安保関連法案は、「法令のせいで機動力に劣る自衛隊」という大問題を先送りしてしまったという印象をぬぐえません。
現在の政治勢力で、その点を指摘できるのは「次世代の党」だけでしょう。幸い「次世代の党」は参議院議員の方が大勢いるので、政府案を修正させるところまでは届かないにしても、この議論を是非国会議論の遡上にのせてほしいと思います。
そうすれば、安保関連法案が通っても、自衛隊は米国の同盟軍として、韓国軍やオーストラリア軍よりも、遥かに消極的な役割しか担わない存在であることが浮き彫りになり、「戦争法反対」なんて叫んでいる勢力の欺瞞を間接的に明らかにできると思います。

政府案に対する不満の2点目は、マスメディアでもよく指摘されている「存立危機事態」という概念の曖昧さです。
政府が諸外国への配慮から、これを明確にできないのは理解できますが、メディアは明確にして議論すべきでしょう。
政府案文言のままでは、中東危機が含まれてしまう可能性を否定できません。中東においてはイスラエルよりの米国政府と産油国と友好関係を維持する日本政府の立場は異なります。ですから、米国の軍事行動を例え後方といえども支援すべきでないし、駆けつけ警護を引き金にした産油国との武力衝突などもっての他だと思っています。
その点では、「維新の党」の修正案である「武力攻撃危機事態」=「条約に基づきわが国周辺の地域においてわが国の防衛のために活動している外国の軍隊に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険があると認められるに至った事態」というのが、より妥当だと思います。
しかし、中東を除外し南シナ海などを射程に含めた、よりよい文言があるかもしれません。

いずれにしても、政府与党と「次世代の党」「維新の党」が胸襟を開き、日本が将来にわたり、近隣の独裁国家に侵略されることのないよう、無益な戦争に巻き込まれることのないよう、しっかりと議論してほしいと思っています。